大判例

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東京高等裁判所 昭和46年(う)3265号 判決

主文

原判決を破棄する。

被告人を禁錮拾月に処する。

原審に於ける未決勾留日数中八日(全部)を右本刑に算入する。

当審に於ける訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は東京高等検察庁検事中川一提出の控訴趣意書に記載された通りであり、之に対する答弁は弁護人竹原精太郎、同山本雅彦、同熊本典道連名の答弁書に記載された通りであるからここに之を引用し、之に対し次のように判断する。本件控訴の趣意は、要するに、原判決が、被告人を懲役一年二月に処し、右刑の執行を猶予する旨の言渡をしたのは、事案に照しその量刑著しく軽きに失し不当である、というにある。

よつて、記録を精査し、当審事実取調の結果をも併せ勘案するに、被告人は本件当日、自動車を運転する身でありながら、その経営する伊東市富戸所在伊豆海洋公園内の食堂終業後、同所に於て午後八時三十分頃より同九時十五分頃迄の間及び同市内松原丸山町所在の旅館橘荘に於て午後十時頃から同十一時頃迄の間と二箇所に於て、合計ウイスキーポケツト瓶約一本半(約二七〇CC)並びに清酒約四合を飲酒し、当時の被告人の住居である同市南町一丁目二番二十八号鎌田荘に自車を運転走行中、右住居に間近い原判示場所に至り、原判示第二記載の業務上の注意義務を懈怠した結果、人身死亡事故を惹起したものであつて、就中、(一)被告人の酩酊度については、事故後約一時間四十分を経過した時点に於てもなお呼気一リツトル中一・〇〇ミリグラム以上のアルコールが検出され、歩行能力はふらつき、直立能力は左右にゆれ、強い酒臭が感じられ、到底正常な運転は期待できない状況下にあり、その自動車運転の自他に対する危険性の極めて大であること、(二)被告人の運転態度については、両側に歩道があり、車道幅員八・〇メートル(中央線はキヤツツアイが設けられているので被告人車線は四メートルとなる。)の直線、平坦、アスフアルト舗装の現場道路を時速約七〇キロメートルで走行し、自車進路左側には駐車車両等障害物が皆無であつたにも拘らず、本件事故地点手前約三四・七メートルの地点より事故地点に向け対向車線内に殆ど一直線に走行し、対向車線側の歩道すれすれに車道内を歩行中の被害者中嶋照雄(当時二〇年)に自車を衝突させ、原判示の如く同人を死に致したものであつて、被害者の過失は零に等しく、右人身事故は全く被告人が原判示業務上の注意義務懈怠の結果に外ならないのみならず、その結果も重大であること、(三)被告人の交通前歴については、被告人は過去昭和三十八年六月以降同四十一年十一月迄の間、酒酔運転による人身事故を惹起し業務上過失傷害、道路交通法違反の廉で罰金二万円に処せられている同種前科がある他、定員外乗車違反で一回、速度違反で一回、駐車違反で二回と各罰金刑の処分を受けており、被告人としては、自動車の運転或は取扱上、法規の遵守について十分戒心し、安全運転を図るべきであるのに、又又、本件事犯に及んだことが認められ、これら諸般の情状に鑑みると、本件は洵に悪質というの外なく、その刑責は極めて重いものといわねばならない。

弁護人は、本件事故は酒酔いのみによるものではなく、精神病的欠陥の介在がある旨主張するけれども、被告人が普通免許を取得したのは昭和三十三年十二月であつて、本件当時迄の間に、免許取得につき精神病的欠陥者を排除する努力がなされ法改正のあつたことは、自動車運転者にとつては顕著な事実であるのみならず、弁護人主張の異常は事故後五ケ月を経過した時期に発見された事実を基にするものであり、本件事故当時被告人にその欠陥があつたとの疑は記録並びに当審事実取調の結果に徴しても之を認めることはできない。又、弁護人は本件酩酊運転の動機、原因について縷々論述するけれども、これは被告人の酩酊運転を正当化し、或は刑責を軽減する理由とはならない。

成る程、本件については、弁護人主張の如く、昭和四十六年六月二十一日被告人側と被害者の父中嶋弥太郎との間に於て慰藉料等金一千二百万円(自動車損害賠償責任保険金五百万円を含む)を支払うことで示談が成立し、その支払もなされており、又、被告人らは事故後被害者の救護、治療、弔意の表明につき誠心誠意之に当つていることが認められ、これ等は被告人の父を含めた被告人側の誠意の徴表として高く評価すべきものではあるが、本件は前記の如き案件であつて、弁護人指摘の諸点を考慮してみても、到底刑の執行猶予を相当とする事案とは認め難い。結局、原判決の量刑は著しく軽きに過ぎて不当であり、破棄を免れず、論旨は理由がある。

よつて、刑事訴訟法第三百九十七条により原判決を破棄し、同法第四百条伯書により当裁判所に於て更に次の通り自判する。

原判決が確定した事実に法律を適用すると、原判示一の所為は、昭和四五年法律第八十六号附則第六項により同法律による改正前の道路交通法第六十五条、第百十七条の二第一号、昭和四十五年政令第二百二十七号による改正前の道路交通法施行令第二十六条の二、罰金等臨時措置法第二条(昭和四十七年法律第六十一号罰金等臨時措置法の一部を改正する法律により、所定刑中罰金刑については行為時と裁判時で刑の変更があるので、刑法第六条、第十条により軽い改正前の法条を適用。以下同様。)に、原判示の所為は刑法第二百十一条前段、罰金等臨時措置法第二条、第三条に該当するので、所定刑中、前者については懲役刑を、後者については禁錮刑を選択の上、以上は刑法第四十五条前段の併合罪であるから、同法第四十七条本文及び但書、第十条を適用して、重い後者の罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内で被告人を禁錮十月に処し、同法第二十一条により、原審に於ける未決勾留日数中八日を右本刑に算入し、当審に於ける訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項本文により全部之を被告人に負担させることとして、主文の通り判決する。

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